クッキーモンスター


バレンタインデーは理不尽な目に遭わされたので、オレは阿部君にお返しをしようと密かに決めていた。
お返しっても、『日頃お世話になってますー』とゆーのじゃなくて、ゲンミツに仕返しの方 デス。 今日はバレンタインデーのお返しをする日らしいから、決行には絶好の日だ。
まず、絶対阿部君の思う通りにはならないぞ!んでもって、クッキーで釣って誘惑する。阿部君はオレが頼んだら、きっと乗ってきてくれるはずだ。いつか罰ゲームでやったポッキーゲームがとても恥ずかしかったので、アレをクッキーでしてみよう。クッキーはポッキーより短いから、きっと計り知れない恥ずかしさの筈だ。
オレの作戦は完璧だ!よーしこーい!阿部君、ばっちこーい!・・・うぉおおおぉ、バッターしょーぶぅううううぅっ!!
「何やってんの?」
「ヒィ!!!」
無意識にガッツポーズをしていたオレに、背後から阿部君が声を掛けてきたので飛び上がってしまった。不意打ちに大分慣れたとは思うんだけど、やっぱり怖いものは怖いの デス。
「な、なななんでも ありません、よー」
「・・・あっそ」
じゃー帰るわ と、鞄を肩に掛けた阿部君の服の端をオレは慌ててハッシと掴んだ。一緒に帰ってくれなきゃ、作戦が決行出来ない。
「ま、まままま待って、・・・一緒に」
「いーけど」
阿部君は呆れた風にオレを一瞥して、大きく溜息を吐いた。
「早くズボン履け」


* **
「お前から声掛けてくんなんて、珍しいな」
風で外れかけたオレのマフラーを巻き直してくれながら、阿部君はオレをまじまじと見つめた。熱でもあんのか?いや、なさそーだが なんて心の中で自問自答してそうな顔だ。
「あ、阿部君! ホワイトデー、だからクッキー」
「・・・へ?オレに?」
オレは全力でコクコク頷くと、阿部君はものすっごく怪訝そうな顔をしてみせた。・・・う、オレの作戦 もうバレた?
「お返し、余ったんか?」
「ち、違う よ・・・こっち、来て」
バレてなかった!安堵したオレは阿部君の服の袖を引っ張って、勢いよく公園へと向かった。
作戦決行は人気のナイ所の方がいい。人の目があると阿部君やってくんなそうだし、鳩の集団とかにクッキーを狙われるのも嫌だ。
オレは山型の遊具の穴に身体を入れた。この遊具は年季が入りすぎていて、子供が寄り付かなくなっているっぽい。この中の埃っぽさと沈降してる空気の匂いが、人の出入りの無さを物語っている。
「んなトコ入んのかよ」
服汚れるんじゃね?とブツブツ文句言いながらも、阿部君は中へ入って来てくれた。今のトコ、計 画 通 り、だ!
「中、案外広いんだな」
遊具の外見通り、中の空間も山型になっている。穴は3〜4箇所開いているから外の光は入ってくるけど、座る位置に因っては中に誰か居るなんて分からなそうだ。
阿部君が天井に手を着いて物珍しげにあちこちを触っている間に、オレは鞄の中からユニフォームとかを掻き分けて、プレゼントの包みを取り出した。
「こ、これっ」
「はぁ・・・どーも」
腑に落ちないって顔で阿部君はオレの手からそれを受け取った。いよいよ【阿部君ホンロウ大作戦】カイシ、だ!
「今、開けんの?」
「うん!」
正座でワクワクして待っているオレをちょっと引き気味に見遣り、阿部君はバリバリとラッピングを開けた。
クッキーはお母さんに買ってきて貰った女の子へのお返し用と同じものだ。阿部君が掌に収まるサイズの缶を開けると、薄いクッキーが詰まっていた。甘くて香ばしい匂いが漂ってきて、オレは無意識に鼻をクンクンさせた。
「お前も食うか?」
阿部君が缶に入ってるクッキーを、欲しそうにぱかんと開いてたオレの口に入れてくれた。お、おいしい、デス!!もぐもぐ。ごくん。
「ほーら、美味しいぞ三橋」
阿部君は楽しそうにまたオレの口にクッキーを入れる。何回か繰り返してオレは気付いた。これってアレだ。鳥の親子みたいだ!
って、そうじゃなくて!食べちゃダメなんだったああああぁあー!!
「あ!」
「ふぁに?」
全部食べないで!とオレが言う前に、阿部君は残りのクッキーを全部口に入れて頬張ってしまっていた。缶の中はもう、空だった。
「ぅ、あ・・・」
なんでオレのが泣きそうなんだ?おかしい。阿部君がオレにいいようにされて涙目の予定だったのに。しかもクッキー全部食べられちゃって、もうどうしていいかわからない。・・・半分以上、オレが食べちゃったんだけど。
「どうしたよ?」
気の所為か阿部君、なんだか楽しそうだ。上手く行かないオレを見るのが楽しいのか?ううう、予定では阿部君がこうなるはずだったのに・・・。
あ、今、オレいやなヤツになってる。コレじゃ駄目だ。オレがしたいのはジラしのてくにっくってヤツで、こんなイヤな気持ちにさせたいわけじゃない。てゆか、ジラしのてくにっくはオレには無理なのか?
「ど うもしない」
結局、オレは阿部君に勝てないのか・・・?
バレンタインデーは酷い目にあった。みんなからもらったチョコレートは床にばら撒いちゃうし、嫌だって言ったのにもてあそばれた!
それにチョコレートは大事に1日1箱づつ食べる(あくまで)予定だったのに!阿部君のせいで予定が狂ったんだ!1週間以上掛けて食べる予定が2日で終わったのは間違いなく阿部君の所為だ。
うっかり策に溺れてしまったので、オレは作戦を変更する事にした。最後の手段だ。
といっても、最初の手段と最後の手段しかオレにはない。阿部君ならもっと用意できるんだろうけど、オレにはこれが精一杯だ。
まず、阿部君を後ろから抱きこむ。次にベルトを外して、ちんこを扱く。これだけ。
オレがバレンタインデーにされた同じことを阿部君にする!恥ずかしいだろう目には目を歯には歯をハンムラビ作戦だ。それにはまず阿部君の後ろをとらないといけない。
でも阿部君の後ろは壁だった、っていうより、公園のせまい遊具の中でオレと阿部君がいるスペース以外はみんな壁みたいなものだった。
どうしよう、これじゃ最後の手段も終了してしまう。
オロオロしだしたオレを見て、阿部君は違う方向で心配になってきたようだ。「わりぃ、ハラ減ってたんか?・・・何かオレ持ってたかなぁ」なんて半身を捻って鞄の中を漁りだした。
後ろからが無理なら前からしかない!そして阿部君が(前面に対して)無防備でいる今しかない!
オレは目をぎゅっと瞑って、阿部君の股間に左手を伸ばしてちんこを軟らかく握った。途端に、阿部君の身体がぴくって跳ねた。・・・そりゃそーだよね、いきなりちんこ触られたら、そーなる。
でもっ、オレ、この間 そんなこと、されたんです カラ!!
「・・・三橋、手 離せよ」
『三橋、ハウス』な口調で命令された。阿部君は目が据わっていて、とてもちんこ掴まれて大ピンチな状況には見えなかった。寧ろ、オレのが大ピンチな気がする。
「い、いや です…」
緊張でつい敬語になってしまう。オレの戦況はとても不利だ!例えるなら、機体壊れて着の身着のままのウォードレス、武器はキックとナイフ上空にはスキュラと北風ゾンビ、ビルの隙間からミノさんこんにちは、だ。オレはスカウトじゃない、一般人で埼玉県民でピッチャーなのに!
・・・緊張のあまり、オカシな比喩になっちゃった。阿部君のちんこに触っている手が、段々冷えていくのが分かる。それでもオレは手を離す気にはなれなかった。
「嫌って・・・。お前、ココが何処か分かって言ってる?」
「公園」
「分かってるじゃん」
一呼吸置いて、阿部君は『反逆者には死を!』みたいな口調で冷ややかに告げた。
「なら離せ」
自分が今何処に居るかぐらいは分かっている。でも、だから、それがなんなんだ?
オレは閉じたくなる口を無理矢理開き、目の前の独裁者に反抗した。
「で、も」
「今日 は ホワイトデー なんだ、よ」
オレは、バレンタインデーのお返し が、したいんだよ 阿部君!
そんなオレの心の叫びは届いてないみたいで、心底意味が分からない と言いたげに大きな溜息を阿部君は吐いた。
「三橋。したいの?」
オレは力いっぱい首を左右に振った。し、したくないっ!したい訳じゃない! オレは、阿部君が恥ずかしがったり困ったり上手く出来たらイっちゃったりするトコが 見たいだけ、なんだ!!
そんなオレの様子を遠くを見るような視線で一瞥し、阿部君は徐にオレのベルトへ手を掛けた。
阿部君の手は慣れたもので、触れたと思ったらもうオレのベルトと制服のズボンのボタンを器用に外してて、ためらいなくそこに突っ込んでオレのちんこを握った。
「ひぎぅ!」阿部君の手の冷たさと触られた驚きで声が出てしまった。「うぁは!」ほぼ同時に阿部君もヘンな声を出した。オレが制服越しに触っていた阿部君の股間を握りこんでしまったからだ。でもこれは先に握り込んできた阿部君が悪い。
オレも直接触ってやろうと、右手を阿部君のベルトに掛けてがちゃがちゃ動かしてみるが上手い事外れない。オレなんでこんなに不器用なんだ…。脳内のオレはもっと華麗に、悪代官が女官の帯を外すが如く、阿部君のベルトを外していた筈だ。
今度新しいベルトを買う時は、阿部君と同じのにしようって思った。


* **
・・・阿部君は、ずるい。
オレのちんこの扱いを、もうオレよりも分かっちゃってる。おかしい、オレ、阿部君がイクとこ 見たかった筈、なのに のに・・・
もう、完全に立ち上がっちゃったオレのちんこを、阿部君はあやすみたいにゆっくりゆっくり、指の腹で撫でている。すごく気持ちいい。このまま目を閉じて、しがみ付いて、阿部君に最後までして貰いたい。
でもダメだ!ここで、いつもみたいに流されちゃダメなんだ!今日は、お返しするって オレ、決めたんだから!!
オレは頭を一振りして、まだ直に触れてもいない阿部君のちんこに辿り着くべく、力の入らない手でベルトを掴みリトライしようとした。・・・あれ?
ベルトはもう外れていて、おまけにチャックも下りていた。オレ、いつの間に、そんな事出来ちゃったんだろ???
「みはし」
耳元で優しく囁かれて、オレの身体は勝手にびくんってなった。恥ずかしい。いや、恥ずかしい事されてるんだから、今更恥ずかしがるのは変なんだろうけど。
阿部君に優しくされるのは、とても恥ずかしい。何故なら、涙が勝手に出てきちゃうから。ほら、今もちょっと、ヤバい。
「ぅ・・・」
涙が零れそうになったらヤだから、オレは小さく呻いて目をぎゅっと瞑った。瞼の裏側がじんわりと熱い。
「手、こっち」
戸惑っていたオレの手を掴み、阿部君はちんこに指を絡ませてくれた。阿部君のがオレのみたいに熱くて大きくなっていて、驚いて思わず目を開けてしまった。涙がぽろっと零れた。
「で、・・・そう。先っちょ、触ってな」
頬を伝い落ちそうになったオレの涙を舐めて、足を身体に跨がせるようにして、阿部君はオレの腰を抱き寄せた。
阿部君の前で、ちんこ出しながら足を開く格好になっちゃって、居たたまれない。面と向かい合っていられなくて、オレは崩れ落ちるように阿部君のセーターに額を押し付けた。
オレがそんな感じにモジモジしてる間に、阿部君の手がちんこに絡めてるオレの指に触れてきた。そして、同時に指の甲にオレのが当る感触がした。
「…ほら」
何が『ほら』なのか、いつもなら全然分からない事が、今は直ぐに分かった。阿部君のに絡めてた指を、オレは恐る恐る伸ばし、オレのと抱き合わせる様に沿わせる。
お互いの固さと先走りが、オレ達の欲情のありのままを、丸腰でストレートに伝えていた。オレのと少し違う阿部君の先っちょと、オレのとを一緒に擦り上げる。滑りが倍になるのと比例して、そこから立ち上る臭いも快感も大きくなる。
比例処じゃない、…なんだっけ、あの曲線。乗数?指数?思い出せないけど、そんな鰻登り的に追い詰められていくのは、全身で感じる。
「ぁあっ…」
思わず漏れた声に合わせて全身がぶるっと震えた。阿部君もオレと同じだ。身体が同じように気持ちいいってゆっている。それを感じるだけで、気持ち良過ぎて意識が飛びそうになる。
余裕が殆ど無くなり、力が入らなくなっているオレの指ごと、阿部君は全てを握り込んだ。そして、優しくゆっくりと、二人を上下に愛撫され、オレは空いている手で、思いきり阿部君の背にすがりついた。
気持ち良くて、良すぎて、放ちたくて、でもこのままでいたくて、離したくなくて、嗚咽が、喉の奥で漏れた。
「…すげ、きもちいー」
阿部君が、オレの耳元で吐息と共にそう囁いた。吐息がオレの首筋を暖かく湿らす。低く、優しく、何処か甘い、オレだけが知っている声音。大好きだ。
おれも、オレもおんなじって言いたいのに、声にならない。みっともない喘ぎ声と涎が代わりに口から溢れて、泣きそうになった。いや、もう泣いてるのかなオレ。
しゃくりあげたオレの濡れた口元を舐めあげてから、柔らかく阿部君が唇を塞ぐ。口中に溢れた、上手く嚥下出来ないでいた唾液を小さく音を立てて吸って、飲み下してくれる。
・・・オレがしてほしいこと、全部分かってるんだ。
あべくん、って 口の中で呟いたら、もう片方の手でオレの後ろ髪を梳きながら、阿部君は食むように深く口付けた。首をゆっくり動かしながらオレの口の中を、深く浅くまんべんなく、舌全体でまさぐる。
口の中って、食べたりとか飲んだりとか、あ、後、喋るのとかにしか、使わないトコだと思ってたけど、こんなに感じるトコなんだってオレに教え込んだのは、阿部君のキスだ。
引いたり押したり、波のような、濡れてるトコを共有してる感覚に飲まれていく。頭の中が気持ち良さでいっぱいいっぱいで、ぼうっとする。
全身が心臓みたいにバクバクしてて、口の中もちんこも熱くて融けそうだ。融けそうなトコから、全身にその熱が廻っていく。
このまま訳分かんなくなって、いつの間にか出しちゃったりとか、オレはよくやっちゃうんだけど、今日はそうなりたくなかった。
欲情の熱から逃れようと、外へと意識を向けようとしたけれど、オレに届いたのは遠くではしゃぐ子供達の声だけ。そうだ、ここ、公園だった。そう思ったのも一瞬で、直ぐにオレ達が立てる水音にかき消された。
…ダメだ、もう出ちゃう。きもちよすぎておかしくなっちゃう よ、阿部君。
オレは意識が飛んじゃう前に大きく息を吸いたくて、首を後ろに反らした。離されたオレ達の唇の間で、チュポっと可愛い音がした。
「ぷぁっ」
はぁはぁと犬みたいに喘いで、ふと視線を上げると、阿部君と目がばっちり合った。・・・あ、阿部君、なんか可愛い?顔してる。
胸がトクンってなったのと同時に、オレは全身を震わせながら、白い液を吐き出していた。


* **
気がついたらオレのちんこは綺麗にされていて、オレ達がかきっこしたなんて事実は、この狭い空間の中の何処にも、もう残って無かった。・・・オレの下半身が、丸出しになってる事以外には。
阿部君はというと、何も無かったみたいにきちんと身支度は済ませてて、何故だかセーターを途方に暮れた眼差しで見下ろしていた。・・・あれ?
「あー、ヨダレすげ」
どーしようコレ?みたくセーターを引っ張っている。何かに濡れてテラテラしている箇所は、ゲンミツにオレが顔を押し当ててたトコ、です。ウヒィ!?
アワワワワワ・・・と周囲を見回す。あ、タオル あった!オレは手近にあったタオルをわしっと掴んで、阿部君に差し出した。
「あ、あべくん!コレ、これで ふ拭いて!!」
「ああ、サンキュー」
受け取ったタオルでヨダレ箇所を拭いていた阿部君は、暫くして何故か怪訝な顔をし、まじまじとタオルを見て、嗅いで、そしてうげって唸った。
「って、コレ、抜いたの拭いたタオルじゃねーk!?・・・こんのアホ!」
「うぁは!?」
オレ達の出したのがペットリ付いちゃって再起不能になったセーターを見て、いやー、気付かなかったオレもアホだわなんてブツブツ言いながら、阿部君はセーターを脱ぎだした。
オレ、また やった。やっちゃった・・・
今日はホワイトデーだから、阿部君にお返ししないと だったのに。
なんで 阿部君みたく、上手くいかないんだろう?
「お前はッ!ボーーーっとしてんなよ!」
「ヒッ」
ちんこしまえ!って、阿部君にぐいーっとパンツごとズボンを引っ張り上げられて、ボーっとしてたオレは思わず小さく悲鳴を上げた。
「風邪引いたら笑えないだろ?三月っつっても、まだ寒い日があんだからな」
そう言いながらテキパキとシャツをズボンに突っ込んで、オレのベルトを締めてくれた。オレがやるよりも、全然早い。
同じになりたいのに 上手くいかない、な。
なんたら海峡よりも深い隔たりを感じてションボリ座り込んだままのオレの手を、阿部君は中腰でギュッて握った。
「おら、コンビニ行くぞ。好きなもん買ってやる」
「・・・な んで???」
口をポカーンと開けていっぱい【?】を出したオレに、阿部君は照れ臭そうに、何でもいいだろって呟いた。オレはエンジンの掛かりが遅い脳みそで、ウィーンウィーンとその理由を考えてみた。
も、
もももももも
もしかして、
・・・お返しのお返しの ターン?
逃げ出そうとした首根っこを阿部君にむんずと掴まれ、オレはもうお返しなんかしないって、心の中でゲンミツに誓った。


【End】

03/15/08
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ゲンミツに合作です(笑。ぺこえさんの漫画は反則だと思った・・・。三橋をアホに書き過ぎてスンマセン。でもまたアホラブなの書きたいッス!



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