クローバー・クローバー


ベンチ周りで、みんながケータイいじったり他愛も無いバカ話している中、ふと三橋の姿が見当たらない事に気付いた。
泉とくっちゃべってガハガハ笑っている田島の後頭部を軽く小突いて、オレは尋ねた。
「なぁ、三橋知らね?」
「お?アクエリがぶがぶ飲んでたけど、その後見てねーかも?」
「また過保護アビ発動か」
「うっせ」
たまにはほっといてやれよー 、なんて呆れたような泉の声を背に、オレはあぐらを解いてグラウンドへと向かった。
あいつ、一人で放置しとくと危なっかしくてしょうがねーんだよ。
何も無いところで蹴躓いたり滑ったり出来るのは、お笑い芸人とかだけで十分だ。

さて、しかし、何処に居るだろう?
投球練習場所でこっそり投げてるんじゃねーかなんてのは、数ヶ月前なら思ったかもしれん。
が、今はそんなこたぁしてない。

・・・ハズだ。
オレの脳内会議が無意識なまま、足をそこへと向かわせていた。
空は初夏の色合いを増し、全身を撫でる風は新緑の香りがほんのりとするようで、実に清清しい。 自然と鼻歌が出そうになったが、それは直ぐに引っ込んだ。
三橋が的当てネットの下に蹲っているのが視界に入り、オレはその瞬間ターゲットに向かって駆け出していた。
「み、はしぃーーーっ!」
「ひっ」
突如現れたオレとその剣幕で反射的に逃げようとしたが、それよりもオレが三橋の襟首を捕まえる方が早かった。 ぷるぷるしている三橋の肩に手を置き、顔を覗き込む。
「・・・気分、悪いんか?」
「え」
ぎゅっと目を瞑って身を強張らせてた三橋が、驚いたようにオレの顔をまじまじと見詰め、そしてふにゃふにゃと脱力したかと思ったら勢いよく首を横に振った。ぱしぱし当たる三橋の柔らかい毛が頬にくすぐったい。
「わるく、ないっ!」
まだオレが怖い人だってのは、三橋ん中で抜け切ってないかもしんないけど、こっちをまっすぐ見てくれるようになったのは進歩だ。 オレも三橋が怖がっても、むかっ腹を立てたりはしなくなったし。ちょっとしか。
「そか、ならいーんだ」
「あ、あべくっ」
でもこんなことで何してたんだ?との疑問は、三橋の興奮した呼びかけで遮られた。
「す、スゴイんだ よっ、コレ!!」
ずいっと顔面に突き出されたモノは、どアップ過ぎて緑の何かだとかしか認識出来なかった。ので、オレは後退った。
三橋が大切そうに握ってオレに見せているのは、クローバーだった。しかも六葉の。
寄り目でそれをマジマジと見詰めていたが、三橋が無言のままなのに気付き視線を上げると、期待に満ちた表情でオレを見ていた。
・・・あ、ひょっとして、オレのコメント待ち?
「お、おお!すげーなコレ。き、キレイ だよな」
奇形だけど と言い掛けた言葉を飲み込み、喉の奥で摩り替える。
「うん!」
ニコッと三橋が笑って、その笑顔を見てオレは摩り替え成功を心から感謝した。
「コレ ね、阿部君にあげる」
六葉のクローバーを突き出したままの三橋に、オレは慌てて首を横に振った。
「んなっ、お前が持ってろよ。珍しいし、いいモンなんだろ?」
「オレは 阿部君に、持っててほしい」
瞳の中の強い光。
球投げる時以外でも出来んだな、そんな表情。
有無を言わさない口調で諭すように頼まれ、オレは承諾の言葉も忘れて六葉のクローバーを受け取った。
「もう、これできっと」
「何?」
ケガなんてしない、よー
そう恥ずかしそうに言って、三橋はベンチへと駆けて行った。
その場に取り残されたオレは、その後姿を見送りながら呆けたツラで暫く立ち尽くしていた。
受け取ったクローバーを手のひらに移してよく眺めてみると、茎のところが2本になっているのが分かった。
普通のクローバーがくっついちゃって、六葉になっているんだ。

ここまでくっつきあえたら、どんな気分がするんだろう?

・・・って、何つか誰とだy!!?!?!
オレは己の妄想に心の中で絶叫しながらも、その六葉のクローバーを必勝祈願のお守りの中に保管することを決めた。


【完】

06/04/08
***** **
四・五・六葉、捕獲済です(笑


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