カラメリゼ


一度寝たら朝までまず目なんか覚めないのに、途中で起きちゃったのは、きっと眠るのが勿体ないなって思ってたからだろうけど。
ゆっくりと何度も瞬きをして、まだ夜中だぁーまた眠れると安心して、枕に額を擦り付けてまた目を閉じようとしたけど、身体の片側がやけにポカポカなのに気付いてオレはそっちに首を傾けた。
よく見知った寝顔がドアップで飛び込んできて一瞬、固まったけど、数秒後この状態を理解して全身が熱くなる。そう、オレ達はすっぽんぽんのままで、全身のだるさが数時間前にしてた事を、オレに思い出させた。
オレは何度か手を伸ばし、でも引っ込めてを繰り返した後、そっと阿部君の唇に指先で触れてみた。じんわりと唇の温もりが、そして規則正しい呼吸が、温かい息と一緒に指へと伝わってくる。
唇全体を撫でるように指先を動かすと、食べるみたく口を小さく動かされて、オレは慌ててその指を引っ込めた。
こうして阿部君に寄り添って眠るのは、久し振りだった。
だからせっくすの終わった後も、寝ないでピッタリと身体をくっつけていたかった。でも、当たり前っていうか、とーぜんっていうか、部活帰りだったのもあって直ぐに眠っちゃったみたいだ。終わった時の事も思い出せない。
もったいない、こと した な、と小さく呟いて、オレは自分の腕を阿部君の身体に回して、ぎゅっと抱きついて、鼻先を首の辺りに押し当ててみた。
ふんふんと嗅げば、オレんちのボディーソープの香りと、阿部君の汗の匂いと、オレの唾液の匂いが入り混じって、鼻の奥に飛び込んで来た。
そういえば、ずっと首に抱き付いていたんだっけ?
オレは最中を思い返して、ひとり顔を赤くした。久し振りだったから、オレも阿部君も余裕なんかっぜんぜんなくって、髪も乾かさずベッドに転がり込んでお互いを食べ合うみたいに噛み付いて、アタマん中もカラダもぐちゃぐちゃになった。
「……あべくん」
そのまま額を、阿部君の顎にぐりぐり擦り付けてみる。
何でだろう、こうしてるのに無性に切なかった。眠りの中の阿部君がオレに応えられるハズがないって分かってても、ちょっとでもいいから抱き返して欲しかった。
はぁっと大きく溜息を吐き、せめて自分だけでもって、腕にぎゅっと力を込める。阿部君の鼓動が触れている処から伝播して耳の奥へと響く。その振動だけがオレに応えてくれているみたいで、とても愛おしいと思った。
起こしてはいけないと分かっているけど、今、自分がここでこうしている事を知らせたくて、オレは無意識に阿部君の身体へ全身をぐりぐり擦り付けていた。
「ぁ はっ……」
知らず甘い吐息を零し、身体の中心に熱が籠りだしたのに気付く。オレのが阿部君の腰に当って、おっきくなり始めていた。

このまま落ち着くまで、じっとしていようか、どうしようか?

「…うー」
「あっ」
オレの葛藤は阿部君の寝返りで一瞬に吹き飛ばされた。上半身を覆い被さられるような格好になっちゃって、オレは思わずゴクリと唾を飲んだ。少し顔を上げれば、目を閉じた阿部君の顔が間近にあって、ドキッとする。
その寝顔をじっと見詰めながら、寝てる顔はいつもなんかよりも断然かわいく見えるから不思議だなって、非常事態にも関わらず頭の片隅でオレは思う。
「(いいよ ね……?起こさないよに、スル から)」
こっそり胸中で言い訳をして、自分自身に指を絡める。数回扱けば、先端からのぬるぬるで指が濡れ出した。
「……は、あべく、んっ …あっ、ぁ」
擦りながら、小声で何度も阿部君を呼んだ。呼びながら鼻先を阿部君の肌に擦り付けて、その匂いを嗅いだ。唇が阿部君に当たる度に我慢出来なくて、そっとその肌に歯を立てた。
眠る阿部君をすぐ横に感じながらこんなことするのは、想像以上にきんちょーするし、コーフンする。たちまちいっちゃう直前になって、オレはやっと拭く為のティッシュが必要だって気付き、少し頭が冷えた。
でも、壁側に居るオレが床のティッシュを取るのは、身体を起こして阿部君の下から抜け出さなくちゃいけない。
ちょっと考え込んじゃったけど、もうここまで来たら出すしかないってハラを括る。オレは阿部君の上半身をぬるぬるが少ない左手で支えて、そっと自分の身体を移動させた。抜け出した後に阿部君を見たけど、目覚めそうにないのを見てほっとした。
「ん、しょ」
上半身をベッドから乗り出して床へと手を伸ばしたけど、箱に指が届いた届きそうで届かなくて、オレの体重が阿部君の身体にのし掛かるか掛からないかってゆー
ギリギリんとこで奮闘してた、
らっ?

!?!!?
「うっ、ひぃぃいぃっっっ!?」
いきなり背後からガシッっとしがみ付かれて、オレは素っ頓狂な声を上げていた。オレを捕らえた手が、そのまま胸からおへそを行ったり来たり撫でまわしたりするから、オレは全身総毛立ってしまった。
「ふぁぁあぁ、ぁうぅっ」
「……なに、ちょっと撫でた だけだろ」
ただでさえもう爆発寸前なのに、耳のすぐそばでねっとりとした熱い吐息でそう囁かれて腰が抜けそうになった。後ろから抱きすくめていた腕は、そんなオレをすかさず絡め取って引き寄せ、阿部君の身体の上にオレはあっけなく乗っかる形になった。
「あ、やぁっ」
かちかちのぬるぬるでいっぱいいっぱいなオレのちんこを、阿部君は挟んだ身体で弄ぶみたく腰でうりうりするから、オレはその動きを手で抑え込もうとした。けど、半端にしか力がはいんないオレの手なんか、あっさりと阿部君の腕ん中に封じ込められてしまう。
「お前、一人でこんななって。寝る前に したっつーのに、……やーらしー」
耳朶を柔らかく吸いながらくすくす笑うもんだから、くすぐったいのと恥ずかしいので、オレの顔はこれ以上ムリってくらい赤くなった。やらしーって、どっちが!とか、すっごく阿部君の指とか舌に言いたい。
「あっ あべく、ん いいいいいいいつっ、おきてっ」
でも実際はままならない呼吸の下、はふはふしながら、そう問いかけるのが、今のオレには精いっぱいで。
「お前が 何回も、呼んだり すっから」
おきちったよ
どこか甘えるみたくそう言って、オレのほっぺたに、ちゅってキスをしたので、オレはびっくりして顔を上げてしまった。何でびっくりかってゆーと、必要以上に、阿部君が何か、そう!甘ったるいから。
見下ろす阿部君は半目で、とろんと気だるそうにちょっと不思議そうに、オレを見上げていた。こんな無防備っぽい阿部君は初めてかもしれない。れ、レアもの、だ。
でも下半身は全然無防備じゃなかった。腰のうりうり攻撃は止む気配がない。阿部君の顔を見ながら話したかったのに、オレはまた額を、阿部君の髪に擦り付ける事になった。
いきそうなのに決定打がなくいけないっ、この生殺し状態を、早くっ、終わりにしたいっ……!
「あっあっ、あべくんっ そんな、うごいちゃ やっ」
「……なぁ、もっかい してーの?」
低く甘く、ゆっくりとねだるみたく、耳ん中に問いかけの言葉を塗り込められて、オレは頭の先から爪先まで一直線に震えが走っちゃって、直ぐに返事も頷く事さえも出来なかった。
オレを抱き竦めていた腕が解けて、やわやわとお尻が阿部君の手で撫でまくられてる。荒い息を吐くオレの口元からは涎が垂れちゃってるけど上手く啜れない。阿部君の首筋とオレの唇の間が、べったべたになっている。
ここで言う通りに頷いたら、思うツボなんだ。きっと散々焦らされて、オレが恥ずかしがるよなこと言わせたりさせたりする気なんだ、阿部君は。もうオレだって、学習してんだ、よ!
でも、それでも。
もっともっと触って欲しくて、もう我慢の限界で、頭の中のアラームなんか吹っ飛ばして、形振り構わずオレは阿部君の首に縋った。
「しっ、しししした いっ!あぁ、あべくんっ ……してっ!」
「ん」
小さく阿部君は頷いてオレの髪に顔を埋めた。何か、くんくんされている気がする。
いつもの『ニヤッ』→『言葉責め』→『身体責め』→『以下略』を覚悟していたのに、阿部君はそのまま動かない。オレを抱すくめていた腕が、ゆるゆると解けていく。
オレも強張っていた全身の緊張を恐る恐る解いて、そっと話し掛けてみた。
「あ、あべくん……?」
「……」
「あべ、君?」
「……」
「………も もしもーし???」
「ぅ……ん」
「…………………………………………」

ね、
……ねね、ねねねっ ねちゃって、るーーーっ!?

オレが決死の思いで(というか、ぱんぱんのちんこに追い詰められて)言った言葉は、届いちゃいなかった。これっぽっちも。
ガックリ脱力しちゃう気持ちなんか、オレん中には何処にも無かった。そして何でかオレの身体はぷるぷると震えだした。こんなの、初めて だ!
ヒトデナシとかカタスカシとかナマゴロシとか、言葉の使いドコロがよく分かんなかったけど、今ならすっごく身に沁みて分かる。オレ多分、今、ガッカリし過ぎで、怒ってるんだ。
逆を返せば、いつも阿部君には期待通りというよか、それ以上のを貰ってるって事なんだけど、裏切られたオレのちんこの怒りは日頃の恩義を振り返る余裕もなく、暴発寸前だった。
要は、一回噴火させないと静まらない感じなん、だ。
「う、ぅっ〜〜〜」
裏筋がビキビキってなって、その引き攣りが痛くって、オレは両手でぱんぱんなちんこを包み込んで、どさっと阿部君の上に倒れ込んだ。ら、
「ひ あぁっ!?」
そん時、ちんこの先っちょが阿部君の腹筋にぐりぐりって当たって、その刺激でオレはあられもない声を上げてしまった。で、出ちゃうかと思った……。
オレは身体を起こして、阿部君のお腹を見下ろした。まじまじと見るのは初めてで、オレが思っている以上に阿部君の腹筋はスゴかった。抱き合ってる時にちんこが当たって気持ちいいのは、この凹凸のお陰だったんだ。
いつもお世話になってますと腹筋に頭を下げて、ちゅっとそこにキスをしてから腰骨んトコが赤くなってんのに気付いた。何だろうとよく見たら、オレが付けたっぽい噛み痕だった。
こんなトコいつ噛み付いたっけ?と思い返したら、ちんこがまた反応するのと同時に思い出して、オレはまた阿部君の上に倒れ込んだ。で、出そうになった……。
オレ達って、どーしてこんな、えっちになっちゃったんでしょう?……お母さん、ごめんなさい。
とにかく、
射精感をどうにかしたい今のオレは、罪悪感にも負けないちんこの怒りよりも、この訴えかけられ続ける切なさを解消する事にした。阿部君の腹筋、で。
阿部君に覆い被さったまま、ちんこを腹筋に擦り付けるように腰を動かす。オレと阿部君の腹筋に挟まれたちんこの立てる濡れた音が、段々と大きくなってくる。ちんこの先とか竿んとことかが、腹筋に引っ掛かり弾かれる度、快感がぞくぞくとオレの背を走る。
気持ちよくって、頭がくらくらしだして、すぐに息が荒くなった。
裸で抱き合う時、阿部君はオレの身体が気持ちいいって言うけど、阿部君のが絶対気持ちいいって、ゲンミツにオレは思う。
触るのも、触られるのも、どっちも好き。阿部君の身体は、どんなとこも、大好きなんだ。
腰を夢中で動かしながら、阿部君の眠り顔を見下ろす。そういえば、オレが上になるのって今まで、ほとんどなかった気が、する。
阿部君が覆い被さってる時、こんな風にオレは見られてるんだなぁと思うと、すっごく恥ずかしい。阿部君の寝顔は可愛いけど、オレきっと最中なんか、すっごいヘンな顔してる。
「あっ、あぁっ あ」
いよいよ、限界が近い。頭ん中が、白くなって、くるのが、分かる。オレの吐く荒い息と、心臓の音と、オレ達に挟まれたちんこが立てる音が、頭ん中で反響してる。
オレは高速で腰を動かしながら、鼻先を阿部君の髪に押し当てて、顔面を強い髪先で突っつかれながら、その匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。オレんちのシャンプーと阿部君の匂いで、胸の奥までいっぱいにする。阿部君の匂いも、だいすき。
ぎゅっと目を瞑ったら、いつの間にか溜まっていた涙が、頬を伝っていくのが分かった。
「あ、ああああぁぁあっ あ、べく んっ……!」
背中のぞくぞくが頭のてっぺんまでいった途端、オレのちんこから勢いよく精液が噴き出して、オレと阿部君の喉元までを生暖かく濡らした。
「……は し」
阿部君に名前を呼ばれた気がしたけど、オレは震えるちんこを腹筋に押しつけて髪に顔を押し付けたまま、快楽の余韻に包まれ意識を手放した。


***** **
「……は し、三橋っ!いい加減退け、重いっ」
「ん、んぅー?」
ゆっさゆさと肩を揺さぶられて目が覚めた。何回か瞬きして焦点を合わせ、阿部君の上に乗っかってるってゆーのに気付く。カーテンから見える光から、もう朝というには遅い時間になってそうな事が分かった。
揺さぶられた勢いで、ごろんと阿部君の身体から落ちる。うつ伏せのまま、オレはうぅーんと猫みたく身体を伸ばした。なんだか、とっても清々しい気分、だ。
「うわっ!ナニッこれっ!?」
横で阿部君が素っ頓狂な声を上げたので、オレは飛びあがって身体を起こした。阿部君は目をまん丸くして、自分の身体を見下ろしていた。阿部君の身体中に、白いカピカピがいっぱい、くっついていた。
「オレ、後始末したと思ったんだけど……うわぁ」
うわぁ。
オレは昨夜自分が仕出かしたことを一気に思い出して、顔面が蒼白になるのが分かった。出した後、そのまま寝ちゃった や……。自分も見下ろせば、同じような状態になっていた。これはスゴい。いっぱい出したんだなぁ、オレ。
「げ、お前もすげー事になってんぞ?ああああああああ、触んなっ」
パリパリと白いのを剥がしてたオレの手を、阿部君は慌てて掴んだ。大きく溜息を吐いてしばらく肩を落してたけど、すぐにシャキッと顔を上げてオレの身体をシーツでぐるぐる巻きにした。
「あーも、風呂行くぞ。んで、シーツも毛布も洗っちまお」
阿部君と朝からお風呂。異論の無いオレは大きく頷く。阿部君がスッポンポンのままで寒そうだと思ったから、オレはシーツを半分剥がして阿部君にぐるぐる巻き付けた。オレ達、春巻きみたい、だ。
そんなオレを見て、阿部君は目を細めて小さく笑った。その笑顔でオレの後ろめたさは一気に吹っ飛んでしまった。

こんなオレで、ごめんなさい阿部君。今度一人でする時は、もっと上手にします。

【完】


02/11/09
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おかしい、最初あまったるかった筈なのに、な……(遠い目)

いきそうなのに決定打がなくていけない、この生殺し状態を、終わりにしたいっ……!
よし、目が定まった。昨日はリード通りに腰振るだけとか言ってたのにな。上になって固くなるのは欲が出てきた証拠だぜ。
三橋にとっちゃいい傾向なんだ。そのプレッシャー受け入れろよ!

という、ぺこえさんver.も書いてみたかったかもです(笑)


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