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reason 「お、お前なぁ、ちゃんと頭拭けよ!風邪引いたらどーすんだよ!!」 髪から雫をポタポタ垂らしたまま部室の扉を開けた三橋に、阿部は開口一番怒鳴りつけた。 洗髪の戻りが遅いとイライラして待っていたら、濡れ鼠みたいな格好で戻ってきたのだ。阿部じゃなくても叱り付けたくなるだろう。 「おら、こっち来い!」 「う、ぁ」 言葉もなく硬直し立ち尽くす三橋の左手を掴み、阿部は自分のバッグの近くに座らせた。 バックの中から未使用のタオルを取り出し、三橋の頭に被せて髪をわっしわっしと乱暴に拭いてやる。 そして身を硬くして前後左右に揺れる三橋が掴んでいるタオルに気付いた。どう見てもフェイスタオルサイズだ。 「スポーツタオル持って行くの、忘れたのか?」 んー とか むー とか言葉にならない音を発している三橋に、少し声音を柔らかくして阿部は尋ねた。 「そ そ、そ そーなの、かっばん におっき いのご ご めんな、さ」 頭を揺さぶられている状態で答えるので、いつも以上に言葉が連続しない。 「あーあー、わあったよ。もー怒ってねーから、力抜けよ」 「ぅ、うん」 三橋はほっとしたように肩の力を抜き、頭を阿部に預けてきた。阿部が髪を拭く手つきも、追って緩やかになる。 何回か三橋の髪を拭いてやった事はあるけど、その度に猫か犬かのトリミングをしている感じがするのだった。 自然と阿部の視線が三橋の項に落ちた。 『まだ、赤いままか』 三橋は日に焼けても黒くならない。赤くなって、また元の色に戻ってしまう。 最近は日差しも落ち着きつつある頃なのに、特に弱い箇所なのであろう項の赤味は取れていなかった。 首にクリームを塗ってやろうか? と声を掛けようとしてある事を思い出し、阿部はその言葉を飲み込んだ。 初めて三橋に口付けた箇所は項だった、と。 何故あの時、唇を寄せたくなったのかは、今でも分からない。 日に焼けた三橋の項は、唇に熱く乾いた感触を与えた。 そしてその行為は、焦がれる想いを自分の中に呼び起こす事となったのである。 ***** ** 「三橋、ちょっと俯けよ。首んとこ塗ってやるから」 あまりにも日に焼けて真っ赤になっている項は、襟が擦れる度に痛いらしく、練習中、三橋は無意識に何度も項に手を遣っていた。 それなのに、練習後何の手当てもせず放置なままの三橋を見かねて、阿部はそう声を掛けた。 「う、あ?なななん」 【塗る】という意図が分からず項に手を遣り、半着替えのまま言葉を詰まらせる三橋を、阿部は思いっきり睨んでみせた。 「首の後ろ、痛てーんだろ?日焼けがひでーんだよ。保湿クリームくらい塗っとけ」 「あ は、はい?」 自分のバッグからクリームを取り出しスタンバッてる姿を見て、観念したように三橋は背を向けて俯いた。 『うわ、痛そー・・・』 三橋の項は真っ赤になっていて、所々で皮が剥けかけている。 因幡の白兎ってこんなんじゃねのーか?と、その項を見つつ阿部は心中でこっそり首を竦めた。 指でクリームを掬い取り、阿部は三橋の項へと指を滑らせる。不意に項へ落とされた冷たい感触に、三橋の身体が小さく震えた。 「・・・っ」 吐息のように漏れたその声に、一瞬、阿部の知覚がぶれた。 気を取り直してもう一度指を項に落とそうとして、 そうしたはずなのに、 阿部は三橋の項に唇を落としていた。 * ** 三橋は背を少し反らせただけで身を引かなかった。 あの時、身体を離されたのならば、自然と流せたと思う。わりぃ、当たっちまった。ンなびっくりすんなよ、と。 でも、そうはならなかった。 三橋は身体を硬くしながらも阿部の動きを待つように、息を殺していた。 自分の行為が受け入れられたのだと思った瞬間、信じられない衝動に襲われ、阿部は三橋を後ろから抱き締めていた。 腕の中の三橋が震えながら、息をゆっくりと吐き出すのを混乱しながらも感じ、阿部は酩酊感に似た感覚へ陥りそうになった。 それを堪えるようにぎゅっと目を閉じて、項に当てた唇をそのまま頬へと滑らす。 頬は、項よりも更に熱かった。 三橋の鼓動と息遣いがその背中越しに、自分の腕へ胸へダイレクトに伝わる。 きっと自分のも同じように伝わってるのだろうと、意識の片隅で阿部は思った。 マウンドでの三橋とは違う匂いがする。目を閉じているとそれがよく分かる。 子供の、日向の、何処か甘い、それらが混じった、三橋の汗の。 阿部の腕に知らず力が篭り、三橋は小さく吐息を漏らした。 そんな三橋の反応に対して、涙ぐみそうになる自分自身に阿部は驚いていた。 『オレ、こんなにコイツに触れたかったのか? 三橋のこと オレは 好き、なの か・・・?』 どうして いつから いつか ら・・・? 阿部は三橋の頬から顔を離した。と、同時に三橋の肩の力が僅かに抜ける。 そんな三橋の顎に手を掛け、その顔を自分へと向かせた。三橋は何かを堪えるように目をぎゅっと閉じて、今にも泣きそうな顔をしていた。 自分が抱き締めている間、どんな表情でいたのだろう? それを知りたいと、痛烈に阿部は思った。 「・・・オレ、お前に 好きだって 言ったよ、な?」 予想もしていなかった台詞が阿部の口から零れ、その言葉に三橋は閉じていた目を大きく見開いた。 三橋は阿部の顔を見上げ、何か言いたげに何度か口を開閉させた。そして、泣き笑いの顔で微笑んだ。 「オレ も、ゆっ た・・・」 溜まっていた涙がその瞳から流れて阿部の手に落ちた。 その言葉が免罪符となり、二人は唇を合わせた。 ***** ** 「あ、あべ くん・・・?」 手が止まったのを訝しげに思ったのだろう三橋が掛けた声で、漸く阿部は我に返った。 「ぁー、なんでも ねーーー よっ」 照れ隠しのように髪を乱暴にわしわしっとタオルで絞り上げ、仕上げにタオルで三橋の頭を叩く。 「顔、赤い」 上目遣いに三橋に指摘されて眉が釣り上がりそうになったが、三橋の表情をしげしげと見返すと阿部は意地の悪い笑みを浮かべた。 「お前のが、赤い」 墓穴を掘った事に気付いてあわあわする三橋の頬に手を沿え、自分の方を向かせる。 「三橋、今、何考えてる?」 三橋は赤面したまま、大きく目と口を開けた。そしてちょっと照れたように口篭りながらも、囁くように答えた。 「阿部くんと、同じ事だ と、思う よ?」 二人は同時に小さく笑うと、どちらともなくキスをした。 【To be continued ?】 08/22/07 →田島レベル →戻 |