Love and reason do not go together 1


何に微笑んでいたのだろう?
自分が傍に居る時には見たことがない、
遠くを見ているような、でもすぐ隣に居る誰かを想う様な、そんな微笑だった。


 ふとした時に目にしたその表情が胸に苦しくて、いつまでも離れない


* **
「・・・レン?廉、どーしたの?」
自分への呼びかけで、三橋は我に返った。
視界を認識するとここはいつもの食卓で、向かい側には母親が心配そうにこっちを見ている。
茶碗と箸を自分が手にしているのに気付き、夕食を食べてる途中なんだっけと、三橋はぼんやりそう思った。
「ご飯食べてる最中にぼーっとするなんて、そんなに今日、練習大変だったの?」
「ち、違う よー」
まだ心配そうな顔してる母親にぎこちなく笑いかけて、茶碗の中のご飯を口の中に掻き込む。
お腹はとても空いている筈なのに、胸が重苦しくて上手く食べられない。
それでも普段どおりの食欲が無いと母親は過剰に心配するだろうと、三橋は一生懸命口を動かした。
「女の子から、何か言われたの?」
天から降って沸いたような母親の問いに、三橋は口の動きを止めた。
「ぅ、え?」
口をもごもごさせながら目をぱちくりさせる息子の様子に、的外れな質問をしたのかと母親は少しばつの悪そうな顔をした。
「レンは気付かなかったかもしれないけど、この間の試合、レンへの応援、凄かったんだから!」
「そ、そーなの・・・?」
母親の言わんとする意図が分からず、三橋はもごもごさせていた口の中のものを飲み込むと、どう問い返せばいいか分からない自分の口に、またご飯を放り込んだ。
「だから女の子から、告白でもされたのかなーって」
三橋は口にしたばかりのご飯を思わず飲み下し、そして盛大に咳き込んだ。
「あらあらあら!」
母親は慌てて席を立つと、後に廻って息子の背をとんとんと叩いた。
「だ、だいじょ ぶ。おかーさん、も、平気」
後ろを振り返り手振りで母親に座るよう促す。ならばお茶を入れようと、母親は台所に向かった。
「ごめんごめん、そんな驚くと思わなくて」
「ぅ・・・」
問いの所為か咽た所為か、赤面したまま固まった息子の前にお茶を出し、母親は小さく くすっと笑った。
「でもね、そんな顔してたよ?」
「そんな カオ?」
漸く落ち着いた気管にお茶を流し込みながら、三橋は小首を傾げた。何故かさっきまで自分が考えていた事が上手く思い出せない。
考え込む三橋へ、母親は柔らかく微笑んで答えた。
「気になる人が出来たって、顔」
その言葉で覚醒するように、三橋の中であの光景が鮮やかに甦った。

廊下の窓に肘を乗せてグラウンドを見ていた。そして優しく微笑んだ。その横顔を。
声を掛けようとしたのにそう出来ないまま、その場から駆け去った。廊下の角を曲がると、全力疾走した。
肺への供給以上に息は乱れ、気を緩めると涙が出そうだった。

 何を見て
 誰を想って

 そんな顔、した の・・・?

「れ、レン!?」
手に、持っている湯呑の中に、テーブルの上に、涙がぽたぽたと落ちた。ぼやける視界の端で母親がうろたえているのが映った。
こんなところで泣いてはダメだと頭の片隅で分かっていながらも、三橋の目から涙はひっきりなしに零れ落ちた。


 いつも怒られてばかりで
 あんな風に笑いかけてなんか もらえない

 それでも

 マウンドに立つ時だけが一番、近くに居れる気がして
 マウンドに立つのが、今まで以上に嬉しかった
 自分達だけの 大切な場所

 阿部くんに投げるのが 好きだ


三橋は、ぎゅっと目を閉じて頭を垂れた。そして、首を横に振った。


 ・・・阿部くんが 好きだ


『阿部くんが、好き だ』
小さくしゃくり上げながら、手の甲で涙を拭きながら、三橋は再び箸を取った。


【To be continued ?】

09/07/07


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