To live is like to love-all reason is against it,


キスの後、視線を逸らすのはいつも阿部の方だった。
照れも勿論あるが、唇に温もりが残ったまま三橋の瞳に視線を合わせていると、自分への歯止めが効かなくなりそうで怖くて
すぐ身体を離さずに肩でも抱ければと思うのだが、それすら出来なかった。
毎回毎回、唇へ温もりが与えられた後に引き離される感覚に慣れない。
そんな風に胸を詰まらせながらも身を引いて立ち上がろうとした阿部の肩へ、三橋は頭を持たせ掛けてきた。
「なっ ど、どーした?冷えたか?」
具合が悪くなったのかと焦る阿部に、三橋は肩に額を当てて首を横に振った。半渇きの柔らかな髪が阿部の首筋を撫でる。
「じゃーなんだよ?」
身体を離させようと三橋の腕に手を掛けたが、抗うように身体を硬くしてきた。
「いい加減にしねーと、怒るぞ」
阿部の言葉にびくっと小さく身を竦ませたが、矢張り顔を上げようとしない。
大きく息を吸って最終通告をしようとした阿部の耳に、三橋のか細い声が届いた。
「・・・も、ちょっ と」
こーして、て
と 首筋に囁かれて、三橋の腕に掛けていた離す為の手を、阿部はその背へと滑らせた。


***** **
自分は甘えていると心底理解していながらも、差し出された手を取らずにはいられない。
そしてその手をいつまでも繋いでいたいと思う自分は、身の程知らずで我侭だと思う。
阿部に投手として必要とされている事も、そして三橋廉個人として好きになってもらえている事も
奇跡だと、分かっている。それなのに
今も唇を合わせたばかりなのに、与えられたものに満たされないでいる自分は浅ましいと思う。
こんな自分はいつか嫌われてしまうかもしれない。
それでも、今、この手を離さないままでいたい。
強請って得られた、背に当てられた掌の温もりと耳に掛かる吐息が心地よくて、このまま眠れればいいのにと三橋は思った。

* **
半分眠りかけて身体が大きく揺らぎ、三橋は我に返った。
阿部は同じ姿勢のまま身体を支えてくれていた。どれくらい転寝していたのか見当が付かず、三橋は慌てて顔を上げた。
「ごめ、オレ 寝かけ」
残りの台詞は、阿部の唇に飲まれた。
舌を強引に差し入れられ、三橋は思わず口を開いた。そのまま舌を絡め取られ、柔らかく吸われた。
「・・・ふっ」
飲み込めない唾液が口の端を伝い落ちる。
今までは唇を合わせるだけでこんな風に深く口付けられた事がなく、どう応えればいいのか分からない。
されるがまま与えられる痺れるような感覚に、三橋は混乱しながらも身体を弛緩させた。
「は、ぁ・・・」
唇を離されると同時に、三橋は大きく息を吐いた。阿部に問いかけようとして、また違う甘い感覚に身を震わせた。
離れた阿部の唇は零れた唾液の跡を追う様に、三橋の顎から首筋へと降りていた。
「あ、あべく ん?」
シャツのボタンを外しつつ露わになった素肌に口付けていく阿部を止めようと、三橋はその腕に手を掛けた。
が、その手はあっさりと絡め取られ、三橋の身体は畳に柔らかく押し付けられた。
「お前さ」
呼びかけられて阿部の顔を見上げる。無表情に見える中で、その瞳は暗く濡れているように見えた。
「いつも壊すよな」
何を
と、問いかける間もなくまた深く口付けられて、三橋は痺れる感覚の中へと意識が霞むのを感じた。
阿部の言葉の意味は分からなかったが、まだこうして触れていられるのが心地よくて嬉しくて、そして何故か切なくて
三橋は思考を放棄した。

柔らかく口付けられる事で与えられるくすぐったいような快感から、鮮烈な快感で意識が引き戻された。そして自分自身に指を絡められているのに気付く。
「あっ」
その指先に力を入れられ、三橋は背を反らせた。
もう先が濡れているのが分かる。それを阿部にも知られているのが居た堪れなかった。
「や だっ・・・」
擦り上げる行為を止めさせようと、阿部の腕を掴んだ。が、力が入らない。
「なんで?」
問い返す阿部の顔を見上げる。前髪が被さり、更にその表情は分かり難い。
「は はずかし、い」
「・・・恥ずかしい?」
涙ぐみながら訴える三橋に対して手を緩めると思いきや、阿部は疑問系の、思いっきり険悪な声音で言葉を返した。思わず目を丸くして固まる三橋。
首を一度垂れて深呼吸し、阿部は三橋と向き合った。その顔がいつもの見慣れた(怒っている)もので且つ真っ赤なのを見て、三橋の口が軽く開いた。
「おまっ、オレが今、どんだけ恥ずかしいか、分かってねーだろ!?」
「へっ」
自分の腕を掴んでいる三橋の手を左手で解き、阿部はその手を下へと導いた。触れたものが何かに気付いて、三橋は耳まで真っ赤になった。
「は、わっ!?」
「分かったか?」
依然赤面しながらも憮然とした表情で訊かれ、三橋はフルフルと首を横に振った。自分は兎も角、阿部がこんなになっている意味が分からなかった。
「な、なん で・・・?」
「なんで って、そりゃ、お前が」
答え難そうに相貌を崩しながらも説明しようとして、阿部は言葉を切った。小さく溜息を吐くと一瞬にして静謐な双眸が戻り、そのまま阿部は三橋の首筋に顔を埋めた。
「・・・お前がオレを」

こうしたんだ

耳元で熱い吐息と共に囁かれ、三橋は躯の中心にある熱が全身に廻るのを感じた。

* **
一旦明晰になった感覚が微睡むものへ沈下することは難しい。
阿部の指は、ゆっくりと三橋を昇り詰めさせていった。
「はっ・・・ぁ」
三橋は阿部の肩に顔を埋め、その背に震える手を廻し縋り付いていた。阿部の方が遥かに高かった全身の熱は平衡状態を経て、今や逆転していた。
顔が当たっている肩が熱く湿っぽい。閉じられた瞳から溢れる涙がシャツへ緩やかに滲みていくのが分かる。
タオルで拭いて乾きかけた髪が汗で濡れそぼってきていた。その湿った髪の中に阿部は顔を埋めた。
柔らかさと日向の匂いに満ちている中で、微かに夜の匂いを嗅いだ気がした。

直ぐに果てさせようとするならば、そうも出来た。
が、自我に冷えた部分がまだ残っている間は、全神経を使い三橋を追いたかった。普段では知る事が出来ない、その姿を。
三橋が喘ぐたび、身を震わせるたび、自分の掌を湿らすたびに、深い処が疼くのが分かる。その間隔は徐々に短くなっていった。

そろそろ自分も限界かもしれない
と阿部が思った直後に、三橋は切なげに喘いで身を反らせると精を放った。握っていた掌に生暖かい液体の感触が広がり、指の間から零れた。
「・・・ごめ、ん な、さい」
大きく肩で息をし、掌を汚した事についてだろう、涙を腕で拭きながら途切れ途切れに謝る三橋に対して、阿部は無言で答えた。
そうさせたのは自分なのだ。
その代わりに濡れていない左手で頬に残る涙の跡を辿り、漸く息が落ち着いたその唇へそっと触れた。
「ごめん な」
その言葉の意味を理解出来ない三橋は、腕を顔から離すと濡れた瞳を阿部に向けて訝しげに瞬かせた。
視線が合う前に、阿部は唇に触れていた手で三橋の腕を畳に押し付け、言葉を誤魔化すように唇を重ねた。
穏やかな息が戻りつつある三橋の唇は、涙の味がした。


【To be continued】

10/07/07


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