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a witch's sweet 2 三橋の衣類の中から不思議そうに目を瞬かせ、小さな顔を覗かせたのは、紛れも無く3〜4歳の幼児で、 そして何処から如何見ても、三橋にそっくりだった。 阿部は後ろに倒れそうな己の身体を、弓反り状になりながらも必死に立て直し、恐る恐るその幼児を衣類の山から抱き上げた。 三橋が着ていたTシャツはブカブカだが、何とかその子の肩に引っ掛かって留まっている。 が、三橋が穿いていた下着はその子の胴からするりと離れて、その様子を見て阿部はまた気が遠くなった。 抱き上げられたその子は怯えも泣きもせずに阿部を一心に見詰めていたが、やがて にぱっと笑って言った。 「あ、べ くん?」 明確に呼びかけられ、阿部は停止しかけていた脳に喝を入れた。目の前の幼児は、この自分を正しく認識しているらしい。 「オレの事、分かるのか?」 「・・・うーん?ちょっとちが う?」 阿部が思わず問いかけると、その子は首を傾げて少し考え込み、今度はそう答えた。 「いや、阿部なんだけど・・・。ちょっと今、でかいらしい」 「おっきー、あべくん」 どうやら歳を喰ってしまった阿部の姿が、その子の認識からぶれたのだろう。『でかい阿部』との説明を受けて、納得したように頷く。 そこで阿部は、確認したかったが尋ねたくない質問を、思い切ってその子にぶつけてみた。 「・・・お前さ、三橋なの?みはしれん?」 その子は、予想通り阿部に大きく頷いた。嬉しそうに。 その笑顔を見て阿部は、この現実を受け入れるハラが据わった。据わらざる負えなかった。 * ** 「えーーーっと?」 「(落ち着けオレ。事実から客観的に理解するのが、推理の基本だ)」 日が落ちかけて肌寒くなってきたので、三橋に元(?)三橋の衣類をあるだけ被らせ、自分の膝に乗せた。 有難い事に、三橋は綿飴の袋を結んでいた留め具を弄繰り回して、膝上で大人しくしている。 それにしても人見知りをしない。普段の三橋からは考えられない姿であったが、あのオドオドはれっきとした後天的なモノなのだなと、阿部は一人納得した。 三橋が留め具を飲み込んだり、目を突いたりしないかを見守りながら、阿部は簡潔に現状を纏めてみた。 @オレは成長した A三橋は退行した B知能は見掛けと同等らしい C退行しても現在の記憶は一部保持されている=過去の三橋になった訳ではない D同様にオレも未来の記憶はない Eトリガーは綿飴? 「単にオレがでかくなって、三橋がちっこくなったって事か?」 自分の記憶はしっかりとしている。気を失うまでの記憶はちゃんと残っていた。昨日の晩飯も言える。 それに対して三橋は阿部を認識したものの、記憶は曖昧であった。 どうやら、人間関係等、記憶の深層へ仕舞いこまれる情報は保持されており、行動履歴等の表層部の情報が失われているらしかった。 こんな状況に陥ったのは、どう考えても直前に食べた綿飴が原因としか考えられない。 お互いが食べた綿飴の色を思い返し、再度逆に食べれば元に戻るのではないかと阿部は考えたが、食べ掛けである筈の綿飴は何故か何処にも見当たらなかった。 「お前さ、綿飴買ったろ?」 「う?」 膝上の三橋の身体を軽く揺すり、上を向かせる。仰向いて阿部を見上げる三橋。 ホント、ちっせー頃から同じ顔なんだなと、その顔を見下ろしながら阿部は顔を綻ばせた。一瞬、異常事態である事を頭からすっ飛ばした阿部であった。 「わ・た・あ・め、ほら、雲みてーにほわほわで、甘いヤツだよ」 「あー、わたあめ、スキ!」 見上げたまま、三橋は口元を緩め大きく口を開けて笑った。・・・ヨダレが垂れそうな勢いである。 阿部は慌てて自分の袖口をその口元に当てながら、小さく溜息を吐いた。 「何処で買ったか、やっぱわかんなそーだな」 入手元が不明であっても、三橋が祭りの屋台で購入したであろう事は間違いない。 「・・・探してみっか」 「みっかー!」 阿部の独り言に対して、三橋は留め具を振り回しながら賛同した。勿論、意味は分かっていないのだろう。 そして阿部は漸く最初の難関に気が付き、助けを求めるように茜色の空を仰いで目をぎゅっと瞑った。 「(・・・コイツ、連れて行かなきゃ、ダメだよなぁああぁあああ!?)」 そんな阿部の気持ちを1μgも理解出来ない三橋は、弄んでいた留め具でその顎をうりうりと突付いた。 自分の服装は着崩してしまえば(靴の踵を踏み潰したり、ジーンズのボタンを留めなかったりすれば)何とかなるが、 三橋の場合はどうにもならない。 阿部はTシャツとカーディガンを三橋にきちんと着させ(被らせ)、ゴム紐を引き出して胴回りを詰めたトランクスも穿かせた。 残りの三橋の装備品(?)及び所持品を自分のリュックに詰め込み担ぐと、三橋を抱き上げた。 「裸足だしな、歩かせらんねーから」 「う、お?!」 そのまま自分の肩を跨がせて肩車の体勢を取らせると、三橋の口から歓声が上がった。 「いいか、ぜってーオレの頭から手ぇ離すなよ?」 「うんっ!」 三橋は阿部を見下ろして大きく頷くと、張り切って前方を大きく指差した。 「しゅっぱーーーつ、しんこー!!」 「・・・・・・おー?」 この状況に、徐々に馴染んでいっている自分が恐ろしいと感じる、阿部であった。 因みに、歳を喰って気が長くなっている事に阿部は気づいていない。自己認識の欠如は成長した後も続いていたのであった。 * ** 夕暮れが濃くなってきたのも幸いして、奇異な目で見られる事も無く商店街まで辿り着くことが出来た。 万年閉店セールをしていそうな、いい具合に寂れかけた服屋に飛び込む。ショーウィンドウに子供服が飾ってあるのは、バッチシ確認済みだ。 「すみませーん」 店内に入り、阿部は店の人を呼んだ。外と同じぐらい薄暗い。というか、店内の照明が奥の方の1個しか灯っていない。 やがて店の奥から店主と思われる、どう見ても年金生活●周年なご婦人が、えっちらおっちらと出てきた。 「はいな」 「すみません、この子が着られる様な服を、上下で探しているんですが」 その店主は眼鏡の奥の目を何度も瞬かせながら、阿部と三橋を上から下へと数十秒間眺めた後、阿部に尋ねた。 「・・・お子さん?」 「ええ、そうです。服を汚してしまって」 敢えて全く似ていない件についての言い訳は一切言わず、阿部は穏やかに微笑んでみせた。・・・高校生のオレなら、こうも上手く笑えないだろうな、と思いながら。 「ぜーんぶ、奥さんに似たんねぇ」 「よく言われます」 終始同じ表情をキープする事を意識しつつ、阿部は返答した。 店主は納得したように独り頷きながら、店の奥へと戻って行った。 三橋が大人しく阿部の髪の毛で遊んでいた効果もあったのだろうが、兎に角、第一関門クリア!である。 「あ、金・・・!」 不審者に間違われなかったと安堵した直後、阿部は所持金の事を失念していた事に気付いた。尻ポケットに突っ込んである財布を取り出し、中身を確認する。 「札は5千円、か・・・」 最低でも今夜のメシ代をキープするとなると、服に掛けられる金額は精々3千円強が限度だ。 「(どうすっか。ツケって利くのかな・・・)」 阿部が遣り繰り方法をグルグル考えていると、店主が大きな箱を持って戻ってきた。 値段の交渉をしようと阿部が口を開く前に、店主はその箱を開けた。 「これねー、近くにあった幼稚園の制服」 店主が机の上に広げて出してくれたのは、下がハーフパンツのセーラー服だった。 「七分袖なもんで、ちょっと寒いかもしらんけど」 「いや、すみません。手持ちに余裕がないので、そんな高そうな服は・・・申し訳ありませんが」 幼稚園の制服と聞いて慌てて手を振る阿部に、店主はカラカラと笑ってみせた。 「『あった』と、ゆうたでしょ?無くなってしもうてねぇ、着る子がもうおらんのよ」 そして突き出された指の数に、阿部は速攻頷いていた。 そのセーラー服は、誂えたかのように三橋にぴったりだった。 「ええお子さんですなぁ。大事になさい」 何度も礼を言う阿部へ、店主は優しく笑って言った。 購入した上下を着させたその上からカーディガンを羽織らせて、また肩車で二人はその店を出た。靴はその店に置いて無かったのだ。 「大事にしてるつもり、なんだけどな」 言われた言葉を反芻し、知らず阿部は独り言ちた。 「んー?」 自分への言葉であるのが何となく分かったのか、三橋は思いっきり身体を前屈させて、阿部の顔を覗き込んだ。 肩から外れそうになったその足首を、阿部は慌てて掴む。 「おま、あぶねーだろ!」 「だいじ?」 問いかけに少し上を向くと、視線がまともにぶつかった。瞳は普段の三橋と全く同じなのに、真っ直ぐ視線が定まっているだけでこんなにも印象が違う。 言葉の意味を理解しているかどうかも分からないのに、ちゃんと答えなければならない気がした。 「だいじっ!」 勢いよい阿部の返答に目を丸くした後、三橋は微笑んだ。 気の所為か普段の三橋の笑みに見え、阿部は決まり悪げに顔を前方へと戻した。照れ隠しのように呟く。 「・・・いつもさ、そんな風にオレを真っ直ぐ見て、話してくれれば、な」 返事の代わりに三橋は阿部の髪に顔を埋めながら、小さな声で「だーいじ、だいじ♪」と節を付けて歌うように繰り返した。 ***** ** 参道沿いに並んだ屋台を、左右一店一店づつゆっくり見て歩いた。 人込みは昼間の2倍近くに増えており、反対側の店を見るのが、やや困難な状態になっている。 同じように肩車して貰っている子供とすれ違うと、三橋は嬉しそうに手を振った。 向こうも負けじと振り返してくるのでバイバイの応戦状態になり、結果、仰け反りそうになる事が多々あって、阿部を何回か慌てさせた。 「綿菓子、同じようなの無かったな」 神社の階段前に到着してしまったが、ピンクと水色の綿菓子を一つの袋に入れて売っている屋台は見当たらなかった。 それ以前に、水色の綿菓子を売っている屋台が無かったのである。 売り切れてしまった事も考慮し、綿菓子屋台を出店している人それぞれに尋ねてもみたが、そんな色は作っていないとの返答ばかりだった。 「ぜんぜん覚えてないのか?何処で買ったのか、どんな人から受け取ったのか」 石段に腰を下ろしてから三橋を抱き抱え、阿部は面を向かい合わせて話し掛けた。 が、三橋はパチパチと瞬きして阿部の顔を見詰めた後、ふいっと人込みへ視線を逸らせた。 他に手掛かりを掴む手段を思いつけず、その様子を見て阿部は途方に暮れた。 「・・・て」 「え?」 「て、つないで」 阿部に話し掛けてはいるが、三橋の視線の先は人込みの中にあった。どうやら、手を繋いでいる親子を見ているらしい。 こんな時に何を、と一瞬思ったが、阿部はそう思った自分に苦笑した。こんな時も何も、お手上げなこの状態で、もう焦る必要なんか無いんじゃないのか? 言われたとおり三橋を自分の左側に降ろし、阿部は右手をそっと握った。 自分の掌にすっぽり収まるその小さな手は、暖かで何より柔らかかった。同時に阿部はあの三橋の掌を思い返していた。投球であちこちが固くなった、投手の掌を。 そして三橋の掌を変えた、その年月を静かに想った。 「・・・オレ、お前の手が好きだよ。お前の、この手の成長を、いつも傍で確かめたかった」 知らず漏れた独白に、三橋は小さく口を開けて阿部を見上げた。 そして二人の視線が重なった瞬間、 「う」「お」 お互いの全身に、悪寒に似たものが走った。 「やっべ!!!」 来る・・・! 理論的根拠は全く何も無いが、身体がメタモルフォーゼの予兆を明確に阿部へ告げていた。 三橋を脇に抱え込むと、阿部は石段を猛スピードで駆け上がった。 * ** 「・・・なんだったんだ、一体?」 件の境内裏で元に戻った身体を見下ろしながら、整わない息の下で、阿部は呟いた。 戻る過程では気を失うこともなく、重度の眩暈に襲われただけで済んだ。流石に肉体の変化を確認する事は叶わなかったが。 眩暈を堪えながらも、阿部は三橋のセーラー服を何とか脱がし、Tシャツとカーディガンを辛うじて被らせた。 その結果、元に戻った三橋は、そんな半端に着せられた状態で、ぼーっと座り込んでいる。トランクスはゴム紐が切れてしまったらしく、腰元までずり落ちていた。 「おーい、大丈夫か?・・・オレの事、分かる?」 阿部の呼びかけに、ゆっくりと三橋はその方を向いた。何度か瞬きをしている内に、段々と焦点が合ってくるのが、傍目でも分かる。 「あべ くん?」 問い掛けにそう答え、三橋はさっきまでのように幼く微笑んだ。そして、阿部へと手を伸ばした。 「だっこ して」 「え・・・」 予期せぬ言葉に、阿部は絶句した。 いや、身体が戻ったとしても、まだ知能が追いついてないのかもしれない。そんな状態の三橋に、拒絶なんて出来ない。 阿部は恐る恐る三橋の身体を、そっと自分の方へと抱き寄せた。 『いつも傍で』 三橋は阿部の肩に頭を預け、阿部の言葉を反芻しながらゆっくりと目を閉じた。 【End?】 11/01/07 ***** ** 入れたかったり妄想したりして悶えた場面↓ 焼きとうもろこしを一粒一粒摘んで三橋にあげる阿部 三橋の口の周りに付いたおやきの食べかすを、指で拭ってやる阿部 金魚すくいしたいー!!と駄々をこねる三橋を前に、財布の中を見て泣きたくなる阿部 ヨーヨー釣りが三橋よりも下手な阿部 祭りのあかりを遠くから見詰める二人 眠りかけの子供の暖かさに動揺する阿部 夜行列車の窓枠に肘を付いて夜景を眺める阿部。その膝で眠る三橋(人攫い!!) コミハシ、恐るべしです・・・。色々自分はダメなんだと思い知らされました。締め切り的にも。そして全然ハロウィンじゃねぇ! 最期に、コミハシボイスイメージはヨナじゃなくて、某こ●ろぎさんで!ゲンミツに、頼もぉぉお・・・!!(ダメのダメオシ) →田島レベル →戻 |