a witch's sweet 3
【a witch's sweet 2.5】をお読み頂いてなくても大丈夫です、よー?・・・may be.


近くで話をすると顔を見ていられなくて、いつも無意識に俯いてしまっていた。
そうすると髪の匂いが余計間近に感じられて、自然と鼓動が早くなった。
そして余計に上手く話せなくなって、口篭って終いには怒られた。そんな自分がいつも悲しかった。

自分の目線よりも遥かに高い場所で揺られながら、切ない記憶でしかない筈の匂いに顔を埋めながら、三橋はとても幸せだった。
賑やかで楽しいお祭りの中にいるというのもあったけど、それよりも
自分の足首に添えられる大きな掌の温もりも、
ゆっくり、ゆっくりと進められる歩も、
時折、掛けられる優しい声も、
全て自分だけのものだと、何故か分かっていたから。


* **
「おなか、すいた・・・」
阿部の髪の毛をやや強く掴み、三橋はその言葉を強調した。
何かを探すのに必死で、こっちに注意を向けてくれなくてつまらなかったのもあるけど、お腹が空いてきたのは事実だった。
「ん、腹減ったか。何か喰うか?」
直ぐに顔を上に向けて答えてくれる、そんな他愛も無い事が嬉しくて、三橋は口を半月型に開けて大きく頷いた。
ごちん。
前歯が額に当たり、阿部は一瞬ものすごく痛そうな顔をしたが、慌てて三橋を肩から抱き下ろした。
「お、お前、口 大丈夫か?」
顔面を付合わせて、真剣な表情で顔を覗き込まれる。
自分が知っている顔よりも、もっとお兄さんな感じがするけど、でも大好きな、顔。
三橋は小さな自分の掌を伸ばし、安心させるようにぺしぺしとその頬を叩いた。実際、自分の歯は全然痛くも何とも無い。
「だいじょー、ぶ!」
「・・・そっか、よかった」
心底安堵した風に微笑まれて三橋も嬉しくなったが、微かな違和感が心の奥底をちくちくと突付いた。
今の三橋には、それが何を意味するのか全く分からなかったのだが。

何が食べたいとかも訊かれず、三橋に手渡されたものは、手近な屋台で阿部が買ってきたお焼きだった。食べやすさと好みと腹持ちを考慮した選択である。
美味しそうな匂いと暖かな感触に、三橋はおもいっきり口を大きく開けてそれに齧り付いた。
「あちっ」
中の具は外の皮よりも予想以上に熱く、三橋は思わずお焼きから手を離して口元に手を当てた。
「の、ぁーっ!?・・・がっつくなって、ほら」
落ちかけたおやきを慌てて掬い上げ、阿部は蓋を外した280mlポットボトルのお茶を手渡してやった。
「んっ、むっ」
兎に角、舌のタイヘンなのを治める為に三橋は無心で喉を鳴らしお茶を飲んだ。その様子を阿部は何処か懐かしそうに見守る。
「・・・全く、そんなトコだけは変ってねーのな」
ぷはっーと、飲むだけ飲んで満足した三橋は、その顔を見上げて首を傾げた。
『かわらない』って、何だろう?
問いかける言葉が出ずに何やら言いたげな顔をした三橋へ、阿部は苦笑いをしてみせた。そしてその頭に手を乗せ、髪をくしゃくしゃと撫ぜた。
「全部そのまんまで、でかくなりゃ良かったって事だよ」
「ぉ、おー?」
分かったような分からないような顔で神妙に頷いてみせる三橋の手に、阿部はお焼きを握らせた。
「ほら、ゆっくりな」
屋台脇の長椅子に足をぶらぶらさせて夢中でお焼きを頬張る三橋の姿を、通りすがる女子高生らがくすくす笑いながら見遣ってゆく。
「ね、あの子かわいー。隣の人、おとーさんかな?」
「えー、似て無さ過ぎー」
「似てないけど、親子っぽいじゃない?」
「おかーさん似?DNAすごー」
「(おとーさんって・・・。女と付き合った事もねーのに、かよ)」
今の自分はそんなにオッサンくさいんだろうか?
洋服屋では父親っぽく見られて助かった事をスコーンと忘れ、その会話に数秒間阿部は落ち込んでみた。
「もーいっこ!」
「お、まだ喰うか」
が、催促の言葉で直ぐに我に返り、袋の中から2個目のお焼きを取り出して三橋へと向き直った。そして、盛大に吹いた。
「・・・っちょ、おま、くちっ」
有り得ないくらい、三橋の口の周りが大変な事になっていた。どーやったらそんな風になるのか、食べている処を見ているべきだったと軽く悔やむくらいに。
阿部は笑いを堪えながら、三橋の口の周りを指で拭ってやった。三橋は目を瞑って、大人しくされるがままになっている。
指に付いた餡を口元に持っていくと、嬉しげに三橋はそれを舐め取った。序にまぐまぐと指を咥えられ、その様子は親子の印象を決定付けたようだ。
「ほらー、やっぱりおとーさんじゃん」
「そーだねぇ」
彼女らの去り際の台詞を耳にし、今の自分は確かにおとーさんっぽいのかも?と、お焼きを自らの手で与えつつ、遠い目で阿部は思った。
その手からお焼きを食べながら、三橋はそんな阿部の様子を興味深げに見詰めていた。
2個食べて満足したのだろう、三橋はお腹を擦りつつ大きく息を吐いてから、改めて阿部の方を見上げた。
「あべくん」
「ん?」
「へんなかお」
「・・・どーも」
いつもの三橋にそんな事言われたら反射的に怒鳴って訊き返しているのだろうけど、こんな幼い顔で無邪気に言ってのけられると苦笑するしかない。
しかし、三橋はその返答が不満だったらしい。阿部の膝によじ登って、その頭を両手でホールドしつつ真正面から顔を覗き込んだ。
「さみしーの?」
「う」
真顔で問われ、一瞬、言葉に詰まる。
寂しい表情をした覚えはない。恐らく、自分が『おとーさん』ぽく見える事に落ち込んだのが、三橋にはそう見えたのだろう。
「ちげーよ。自分がオッサンくせーのかなって、ちょっと落ち込んだだけ」
「おっさん、くさい?」
くんくんと自分を嗅ぐ三橋の姿にある種のダメージ(註:萌え)を受けながらも、阿部は何とか真面目に返答した。
「・・・いや、歳喰っちまってんだなーって」
「むー」
三橋は難しい顔をして考え込んでしまった。『オッサンくさい』『歳を喰う』諸々の言い回しが理解出来ないらしい。
幼子に通じるボキャブラリーの乏しい自分に軽く絶望しながら、三橋も同じもどかしさを感じているらしいことに阿部は気付いた。
そしていつもの自分達の会話を思い返し、急に可笑しくなった。
話したいのに面と向かって上手く話せない。面と向かって話しても上手く伝わらない。なんつー、似て非なる状況!
くすくす笑い出した阿部を見て、三橋も訳が分からないままに笑い出した。
「うれしー?」
「お?・・・おお、うれしーよ!」
いつもの自分達では無いにしろ、三橋がもどかしく思っていることが分かって嬉しい。こんな事で嬉しくなる程、自分は単純な人間だったのかと驚くくらいに。
笑いながら、三橋は手を阿部の首に回してぎゅっと抱きついた。
「あべくん うれしーと、うれしー」
回された腕も手も、触れている頬も、全てが小さく温かい。それらに今、触れられている奇跡がどうしようもなく愛しかった。
阿部はその小さな身体を、そっと抱き締めた。






***** **
あんなに大きかった肩が自分と変わらない。それに気付いてしまった自分が悲しかった。
もう元に戻っていると意識の何処かでは分かっていたが、三橋は完全な覚醒を自ら拒んでいた。
戻りたくない気持ちが強くて、この腕の中から離れたくなくて。日常に戻ってしまえば、もうこんな風には抱き締めて貰えないだろう。
阿部と普通に話せていた、言いたい事を言えた幼い自分が羨ましかった。使える言葉は、今よりも遥かに少ないのに。
使える言葉は年齢と共に増えたけど、ある時から伝える為の言葉を使わなくなっていた自分に気付く。
さっきまでの遣り取りを何度か反芻して、三橋はおぼろげながらもある事に気付いた。
「(オレ、阿部くんの顔 まっすぐに 見て、た・・・?)」
そして、そこに浮かぶ阿部の表情を幼い自分はちゃんと捉えていた。
いつも目を合わせて話せていれば、今の自分ももっと理解出来たのかもしれない。そっけない言葉の奥にある感情も、真意も。

遠くで自分を呼ぶ声がする。答えれば、もう戻れない。
三橋は、阿部の肩に額を押し付けてゆっくりと首を振った。


* **
温かい。
今の三橋の体温は眠りかけの子供並に高く、上着を着ていないし、下も穿いていないのに全く寒がる気配は無かった。
熱があるのかと危惧したが、呼吸と心音等から、そうではないと阿部は判断していた。
身体の変化が細胞レベルで落ち着いていないのだろう。実際、自分の身体の気だるさと逆上せたような感覚が同じ現象を示唆している。
変化量が多い三橋の方が、より身体への影響が大きいのは明白であった。
目を閉じると、あの小さな三橋を抱き締めているような錯覚に陥る。
もう二度と抱き締める事はないだろう、あの小さな身体を想うと、いつまでもこうしていたい気持ちに狩られた。
が、いつまでもこうしている訳にはいかない。夜も更けてきたし、何より今日の目的である試験勉強が全然出来てない。
「三橋?」
ゆっくりと腕の中の身体を揺すって、阿部は自意識の覚醒を促した。
「んー・・・っ」
しかし、額を肩に付けられたまま三橋に首を横に振られ、阿部は思わず溜息を吐いて視線を下に落とた。
そして目にした光景に、凍りついた。


【To be continued】

11/21/07
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ハロウィンをここまで引きずったら、最後まで逝くしかないでshow! 以下次号★(ヒラキナオッター!)


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