西浦高校野球部の事件簿 第五話 【前編】


西浦高校野球部の選ばれし五名は、綿密な計画の下にそのターゲットの前に居た。
店主は目の悪そうなご老人、学校関係者を見かけない場所で、且つ人気のない時間帯。
そう、遂に決行の時が来たのだ。

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全ての発端は三橋の一言だった。
そしてそれは、最初の一石がどんなに小さくとも、放った人物により波及度は凄まじく広がるという良い一例となる。

「もーすぐ、田島くん誕生日 なんだよ、ね?」
「おー、そーいやそだっけな?」
休み時間、田島が自分の席で爆睡している時に、内緒話みたく泉に三橋は尋ねた。
「な、なんか して、あげたいんだけ、ど」
オレだけじゃ いいの、思いつかなくて
下を向いて少し赤面しながらゴニョゴニョと言葉尻を濁す三橋の背を、泉は思いっきり叩いた。
「いーーーーーっ!?」
「こーゆーのは、大勢で仕掛けるのがおもろいに決まってんじゃん!他の奴らも巻き込むか」
ニッっと笑い掛ける泉に、三橋はジンジンする背中で涙目になりながらも、安心しきった表情でにへらっと笑った。
確かに【大勢で仕掛ける】のが面白いというのは正論なのだが、概ね主役にもバレ易いのが難点であって
例に漏れなく田島にも知られる事となるのは自然の成り行きであった。
企画段階でバレるのは早過ぎる感はあるが、三橋経由ならば致し方ない気もする。
だがしかし、泉に持ちかけた当日というか数時間後にそうなるのは、天然コンビ故成せる技だろうか?

「なーなー、三橋、どーかした?」
昼休み、三人が顔を合わせた時に初っ端から田島は何か気づいた様で、そう問いかけてきた。
「う」
「は?つか、弁当食っちまったんなら購買行こーぜ。な、三橋」
返答に詰まる三橋に対して泉は何気なく田島を食い気に持っていこうとしたが、田島は三橋の表情から目を離さなかった。
「三橋、オレに言えない事でもあんの?」
直球である。三橋に対する嗅覚は阿部以上というか、恐るべし野生児の勘。
「・・・な、なんで も ない、よー?」
視線を逸らしてオドオドと返答する三橋。コレはどー見ても不信感を煽るだろと、傍で泉は指を額に当てた。
「なんもなくねーだろ?誰かに何か言われた?阿部か?」
「ち、ちがっ」
「田島、三橋にだって言いたくねー事くらいあるつーの。もう訊いてやんなよ」
泉に諭され、田島は思いっきり不貞腐れた顔になった。三橋は不貞腐れているというよりも寂しげに見えたその表情に、思わず答えていた。
「お、お祝い・・・したく って」
「ちょ、三橋」
慌てて泉は三橋の口を押さえようとしたが、間に合わなかった。仕舞ったという顔をする二人に対して、田島は目を丸くしてみせた。
「へ、誰かの誕生日とか?」
二人は顔を見合わせ、泉は溜息吐きつつ、三橋は少し困った風に答えた。
「お前の!」「田島くん、の・・・」
「へ?」
自分の名前が出ると思わなかった田島は、丸くした目をぐりぐりさせた後に漸く事情を飲み込めたようだ。
「あー、そーいやもう直ぐだっけ?・・・つかナニ、それオレ仲間外れでしよーとしてたワケ?!ひっでぇ」
ポカーンとする二人。祝ってもらう人が言う台詞とはゲンミツに思えない。
「フツー、主役は裏方やんねーだろーがよ?」
「や、やんないと 思う、よ?」
それ違うから!みたいな二人の突っ込みにも田島は動じなかった。
「えー、ウチはやるよ?じーちゃん誕生日ん時なんか、じーちゃんが自分で料理すんだぜ!?マイ包丁で」
「・・・へぇ」
「ぅ、うひ!」
「そっだ、しのーかも、オレのおにぎりに海老天とから揚げ入れてくれるって言ってたっけ!」

まぁ、そんな訳で主役も裏方をやる前代未聞のバースディプロジェクトが9組から発足したのであった。

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「えー、そんな訳でチーム分けを行いたいと思う」
泉に事情を説明され、矢張り仕切る事になったキャプテン花井。いよ、苦労人!
流石にサプライズが全くないのも味気ないんじゃないかとの花井の提案で、田島には内容を知らせない特命チームと料理チームに
メンバーを分ける事にしたのだ。
はーい、うーっす、おっけー 等、了解の意をそれぞれ返すメンバーの前に、花井はパラリと紙を広げた。
「面倒だから、上の数字は背番号だ。で、スキなようにみんな1本ずつ線引いてくれ」
アミダくじである。で、その結果は以下のようになった。


(左半分=特命チーム、右半分=料理チーム)
特命チーム:背番号10,3,9,6,2
料理チーム:背番号8,4,5,7,1
「じゃ、各チームに分かれて打ち合わせしてくれ。解散!」

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以下、特命チーム作戦会議。
「サプライズってもさ、具体的に花井はナニ考えてる?」
「ナニって・・・。まぁ、あいつの好きそーな物贈るとか?」
阿部に問われて、在り来たりかもなぁという顔をしつつ答える花井に、他メンバーは頷いた。
「田島の好きな物ってゆーと、食べ物?菓子?」
「甘いのもしょっぱいのも、お菓子なら何でも好きだよね」
チームメイトの食べ物以外の嗜好など、よほど仲が良くなければ把握する事は稀である。特に男同士ならばその傾向は強い。
チェックをしているのは、阿部が三橋に対してくらいであろう。(・・・)
「でも食べ物は料理チームが用意するんじゃ?」
「そーだったな」「あー」
沖の指摘に巣山と西広は考え込んだ。むーんと唸る一同に、花井は重たそうに口を開いた。
「・・・エロ本、か」
「エロ本」「え、エロほん・・・」「エロほ」「エロ本ねぇ・・・」
その場の全員が同時に赤面し、少しその場の体感温度が上昇した。

確かに。安牌じゃない?だがしかし。他に何かないのか?つってもなぁ・・・。

数分間、喧々諤々と議論した末に『エロ本(新品)を贈る』という事に落ち着いた特命チーム。しかし、これから先が難関である事は、その場の全員が理解していた。
「自分で買った事あるやつー?挙手」
静寂で答える一同。
規制が厳しい今日、高校生が自力でエロ本を購入するのには大変な労力を必要とする。
西浦高校野球部の部員達には、それに労力を割く余裕は無かった。

「クラスで回ってるの皆で見るとかだし」
「へろへろなんだよなー表紙とか。あんま自分で触りたくない感じ?」
「だよなー、どっかで拾ったヤツっぽい」
「本じゃなくて、サイト覗くヤツとかいるよね」
「サイトのって気持ち悪くない?オレ苦手・・・」
「あー、わかるそれ」
「本のがキレーに見せてる気がする」
「兄貴が買って放置してんの読むくらいかなー」
「田島のも兄弟のお古っぽいよね」
「オレんち女ばっかだから、そーゆーの持ち込めないんだよな」
「(・・・そういや、オレそーゆーの久しく見てねぇ)」
※誰がどの発言かはご想像にお任せします。

「まー兎に角、オレらで調達しなきゃならないってのは、決定事項だから」
花井の言葉に、特命チーム一同は真剣な顔で頷いた。

* **
さて、一方料理チーム。
「で、田島は何が食べたい?」
「ケーキ!誕生日つったらケーキ!」
栄口に問われ、即答する田島。
ケーキはちょっとハードルが高いかも?と思案する栄口に対して、ケーキかぁぁ〜vホワワンvと幸せそうな顔をする残り三名。
「でもさ、またウチでも出されるかもよ?そんでもいい訳?」
「いい!ぜんっぜん、いいっ!!」
我に返って問う水谷にも全肯定する田島に、栄口は口を開いた。
「ケーキはオーブン無い学校で作るのは無理だから、ホットケーキでもいいかな?3段重ねとかにして」

ほ、ホットケーキ・・・!しかも3段重ね・・・!!

一瞬にして脳内がホットケーキ一色になった四名に、決まりだね、と栄口は笑いかけた。

【続く】

10/16/07
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エロぼーん組とホットケーキ組は厳選なるアミダで決定しました!絶妙な配役にぺこえさんと超笑ったwww





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