西浦高校野球部の事件簿 第七話 


着飾った人々が楽しそうに行き交う大通り、各店先からは鈴の音やクリスマスソングが流れている。
17時の鐘の音を合図に電装が一斉に煌いて、街を行き交う人々を様々な色で彩った。
そう、今日はクリスマス・イブ。
世間的には大切な人と一緒に過ごし、ご馳走を食べて歓談したりプレゼントを交換したりするという、聖なる?夜であるが、バイトの苦学生には全く関係の無い話であった。
「クリスマスケーキ、いかがっすかー!?只今、タイムセールで15%引きとなっておりますー!」
浜田は周りの喧騒に負けないように、精一杯声を張り上げた。拡声器が無いので怒鳴る勢いじゃないと周りに聞こえない。
勿論、サンタの格好をしての客引きである。その横には同じバイトがトナカイの着ぐるみで【タイムセール15%引き!】と大きく書かれた看板を掲げている。
「ブッシュ・ド・ノエル、Sサイズを一つ」
自分とあまり年恰好が変わらない男性が、ケーキの箱を指して浜田に言った。
「ありがとうございます!1275円になります」
代金を受け取りケーキの箱を渡すと、その少し後ろで待っていた連れらしい女性が小さく会釈してきて、浜田は思わず大きくお辞儀をした。
「ありがとうございましたー!!」
礼を言い、面を上げて彼らの姿を目で追ったが、彼らの後姿はもう雑踏に紛れてしまっていた。
「(かわいかったなー・・・。カノジョ、か)」
クリスマスを誰かと過ごすなんて、一人暮らしをするようになってからは有り得なかった。その前も実家が色々ゴタゴタしていた所為で、それらしい事から遠ざかってもう何年にもなる。
クリスマスから三箇日までは書き入れ時なので、今年は休みもせずフルにバイトを入れていた。
まー、いいんだけどさぁ と、浜田は視線を足元へ落として溜息を吐く。幸せそうに微笑み会釈してくれた、あの笑顔がまだ網膜に残っていた。

 ケーキも買ったし、じゃーもうウチでゆっくりする?みたいな話になってんだろうな。
 でもって、買ったチキンと彼女の手作りの料理とかで『メリークリスマス!』とかすんだろな。二人きりで。
 BGMは勿論、二人の思い出の曲とかにクリスマスソングを散りばめた選曲で、さ。でもって

「浜田、ぼーっとしてんなよ!客っ!!」
傍らのトナカイに突っ込まれ、トリップしかけていた自我を浜田は大慌てで叱咤しつつ取り戻した。絶賛バイト中だったじゃん、オレ!!
「す、すんません、お待たせしました!!ご注文は?」
反射的に下げていた頭を上げて目の前の客の顔を見、浜田は口を思いっきりあんぐりと開けた。
見知ったというか、いつも教室で面を合わせている例の三人組が、自分の前に立ってケーキを眺め回していたからだ。
「サンタさん、取り合えずホールで一番でっかいヤツ1コね!!・・・で、なんかサービスしてv」
両手を組んでニッコリと浜田へ微笑み掛ける泉に、田島の超特急な【待った!】が入った。
「ちょ、待てよ泉。こっちのが美味そうじゃね?!このチョコの!!」
「お、オレ、木みたいなのに イチゴ乗ってるヤツが、いい!」
「それもうまそーだな!うわぁ・・・マジ悩む〜」
「お前ら、他の客にめーわくだからさ。つーかさっき、一番たけーのでいーつったじゃん!?」
「ちょ、お前ら、何で・・・?」
涎を垂らしそうな勢いで『うまそう!』を連発する田島と三橋と、周りを気にしつつ二人を宥める泉の姿に、通行人達が釣られて寄ってきて
一時、売り場はケーキを買い求める人々で騒然となり、浜田の疑問符は押し流されたのであった。ナイス(無邪気な)サクラ!

* **
「・・・わりぃ、後回しにしちまって。で、どれだっけ?お詫びに半額にしてやるよ」
漸く人の波が落ち着き、待ちぼうけを食わしていた三人に浜田は心底済まなそうな表情で問いかけた。
「じゃー、やっぱ一番高いコレ!・・・で、いいよな?」
浜田には他人行儀な笑顔で、田島と三橋には超真顔で泉は言い、それに対して三人とも大人しくコクコク頷いた。
指されたケーキを袋に入れ、半額代金と引き換えに浜田は泉に品物を手渡した。
「サンキュ」
「まいど!・・・つか、今から三人でコレ食うの?ウチでは食わなかったんか?」
不思議そうな浜田の言葉に三人は顔を見合わせ、そして【にーっ+】と笑って手を突き出した。意味が分からず、思わず後退る浜田。
「な、なに・・・?」
一見、サンタに集る子供達に見えるところが微笑ましいのか、その様子を見て道行く人達はくすくす笑いをしてゆく。
「カギ!浜田んちの!」
じれったそうに掌をクイクイさせて要求する田島の頭を、泉は軽く叩いた。
「『カギ!』だけじゃ、わかんねーだろ。ったく」
「あ、あのね 浜ちゃんちで、オレ達 待ってるから」
「は?」
オレんちで?待つって?
「お前んちで、クリスマスしよーってんの。9時には上がれるんだろ?オレら待ってっからさ」
泉の言葉に、そーそー と大きく頷く田島と三橋。
「家でメシ済ませてケーキも食ったし、これはちゃんと帰ってくるまでゲンミツに取っとくから、安心しろよ!」
「田島はハラいっぱいなだけだろ・・・」
「バレた?」
泉の突っ込みに答えた田島の【いひっ】笑いに釣られ、三橋も笑いながら浜田に訊いた。
「オレ、ゲーム してみたい。ぱわぷろ?」
「・・・おお?使ってねーデータあるから、やってていいよ」
問い掛けられて我に返り、浜田は三橋に答えた。三人とも嬉しそうに自分を見ていて、自然と顔が熱くなるのが分かった。
「おっしゃー!じゃーオレもデータ持ってこよっかな」
「まてまて。んな事したら完徹コースになっちまうだろ!明日部活だぜ?」
「か、かんてつ・・・」
何をして待っているかについて喧々囂々している三人を見、浜田は知らず自分が微笑んでいる事に気付いた。

 今、オレはあの彼女みてーな幸せそな顔、してんだろな。

見上げると満天の星空で、周りのイルミネーションに負けず劣らず、澄んだ空気の中で輝いていた。


【完】

12/25/07,01/20/08
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イブにゃ働いてる人もこーしてSS書いてる人もいるのだよ?笑。浜ちゃ、遅れたけど誕生日おめっとさんでした!&メリークリスマス★>ALL




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